第1回 第2回 第3回
 

トヨタ自動車・メトロール共同開発「高精度MT-タッチスイッチ」誕生への軌跡

元トヨタ自動車電子生産技術部長 松原秀之

どうした日本のモノ創り!?
後を絶たない、品質トラブル問題を斬る!!

松原秀之 Hideyuki Matsubara
元トヨタ自動車電子生産技術部長。

昭和50年よりメトロールとの間で多クラス寸法判別スイッチの共同開発に着手。トヨタ自動車の生産ラインにおける新しい測定機器の導入を実現した。
(株)東海理化常務取締役、理化精機(株)社長を経て、
現在、コンサルタントとしてご活躍中。

はじめに

日本の製造現場でモノ創りの基本を忘れた結果、品質にかかわるトラブルが社会問題になっている。
流出した不良品の回収だけでも膨大なコストがかかるうえに、生産現場のありかたから言及され、賠償責任、当事者の法的責任まで追及され、企業存続も許されないところまで、追求される例が続出している。
しかし現実に今、市場でトラブルを起し社会で問題になっている内容は、決して高度な次元の問題ではないと思う。
不良品問題が発生した時、生産現場では応急処置、再発防止、恒久対策など、検査や監査を厳しくし、客先への不良品流出を防ごうとするのが、普通の立派な企業の行動である。

しかし検査や監査を厳しくすることで、果たして不良品発生の原因解決が図れるだろうか?




予防医学の見地で病気 (事故) を防げ!!
検査を厳しくしても品質は良くならない

例えば、検便で病気は発見でき、病気を治すことはできても、病気にかかることは防げない。何度検便したところで、その検査精度は上がるかもしれないが病気であることは変わらない。
いくら検査を厳しくしても、生産ラインでの品質は良くならないということだ。
「このような食事をすれば、成人病にならない、健康に過ごせる!」
といった、予防医学的見地で、生活指導をしてくれる医者が、本当の名医のはずだ。

不良が出れば対策をすることはできるが、出なければ対策ができない。
不良の原因が見つけられなければ、いつも危険な状態の中で生産し続けなければならない。
不良品を発生させない環境、良質な製品を作り続けるには、治療医学的な活動ではだめだ。
生産の仕組みに対する考え方も、治療医学から予防医学に変えていかねばならない。

よく考えてみれば、バラツキの少ない最適性能の製品を作ることが、最も大切なことであるはずだ。バラツキの多い製品の購入リスクを、品質工学では損失関数という考え方で、すでに理論化されている。




品質は技術で造りこめ

あらかじめ目標値を設定した性能機能を持つ良品を作るには、決められた生産条件の維持と、万一、逸脱しそうな状況が発生した場合は、生産条件を良好な状態に戻す努力をつづけるか、いったん生産を止め良好な状態に復帰してから、生産を再開するような仕組の実現が大切である。
簡単に言えば品質は技術で造りこむものであって、現場は決められたことを守って、作り続けることが大事だ。

現在の状態から作られる製品品質を予測し、良いモノのみを作り続ける仕組みが重要で、生産を開始してから、徐々に品質を良くしていくという考え方は、認められることではない。
顧客の立場からすれば、規格すれすれの製品は欲しくないにもかかわらず、検査に頼った生産では、良品と不良品の境目の判断に厳しさを要求されるので、検査機への要求精度が厳しくなり、高額投資をせざるを得なくなる。

良品生産のための諸条件を的確に押さえ、その条件で生産を維持するように生産工程の制御をしていく。 そうすることで、製品品質水準の維持とトラブル、不良品発生の未然防止につなげていく必要がある。

具体的にそのような考え方を進めるには、まずは機械の動作をキチンと知ることが出来るようにすることと制御できるようにすることが必要だ。
そのためには、信頼性の高いスイッチが不可欠である。




これからの品質工学の方向性と果たす役割

品質を造りこむためには生産条件を守り続ける必要がある。
そのためには、加工設備の製造条件もしくは加工条件を明確にすること、その条件を維持するための設備の管理条件を明確にすること、加工工程に携わる作業者の、作業条件を含めた工程の管理条件の下で生産することである。

これらの条件は生産開始前に予測的に行動して設定される必要がある。このような取り組みは、品質工学会のような場で理論に基づいて取り組まれていて、いろいろの業界で、すでに取りいれられている。自動車業界、OA機器・薬品メーカーなどなど。

社会的慣習である出荷検査をなくすことはできないにしても、従来の良否選別の検査からは離れて、生産条件が守られていることの確認のために行うという姿に変わっていくだろう。

生産工程の検査を排除したときの品質管理は、生産条件の維持から品質の確保と、出荷段階では全数生産条件を守っていることの確認による品質保証、出荷後は品質の追跡のできるトレーサビリティの確立と、ユーザーによる使用に対する保証に置き換えることになる。




機械ユーザーもスイッチに関心を持て

今まで述べたことは主に品質工学に則りスイッチを装着する機械のメーカに言ったことであるが、機械を使用するユーザも機械のチョコ停が多かったり、不良品が出たときは、「スイッチに精度や使用環境に適合したものが使われているか?」確認する必要がある。

また故障を起こしたときの再調整や修理に、手間がかからないか(自社でできるのが良い)想定しておくべきで、それにより機械の可動率(べきどうりつ)が大きく変るからだ。




メトロールの精密位置決めスイッチは、トヨタの生産ラインから生まれた

トヨタに在職していた30年前、そのような考え方を進めるために、私達は、メトロールの松橋会長と信頼性の高いスイッチの開発を始めた。

当時使われていた、シグナルインジケーターは、防水性が悪く、信号の出し方もフェールセーフで無いなど、工場環境に適応できるように配慮されたスイッチはなく、機械故障を直す仕事と同時に、スイッチ類の誤動作に伴うトラブルに振り回されていた。

製品開発はメトロール、生産現場での適合性評価試験はトヨタ自動車の分担で開発を進めた。メトロール側は「厳しすぎる」といって顔をゆがめたが、評価試験では、繰返し精度を、当時としては100万回動作後で1ミクロン以内のばらつきを狙っていた。

苦労の末、工場環境に強く、機械や作業のトラブル発生時にも信頼性を失わない、高精度の多クラス寸法判別スイッチが開発され、TMS(トヨタ規格)に採用された。

また工場で使われている油、クーラント、洗浄液等などによる影響がないか、機械振動の影響に対して大丈夫か、万一、動作不良になった時には、必ず機械を停止させるような故障になるか、スイッチについて詳しい知識がなくても、現場で正しく使いこなせる構造も大事な開発ポイントであった。

悪環境でも使用可能当時広がり始めた電磁誘導や光を使った無接触形のスイッチに対し、あえて接触形にこだわり、動作の信頼性だけでなく機械装置へのセッティングの確実性を確保した。
内蔵した精密位置決めスイッチが後に「高精度MTタッチスイッチ」として、精度の高い位置検知の用途で、トヨタ向けだけでなく、広く産業機械業界に普及していった。




スイッチの開発に接触式センサを選んだ理由

従来、スイッチに接点があると、チャタリングや接点寿命が短い、といって嫌われたことから、無接点、非接触式のスイッチを選ぶ傾向にあったが、非接触式であるがゆえの短所として、現場での保守保全のしにくさ、センシング精度の不安定さ、などを我慢しているユーザーも実は多かった。

それに対し、敢えて接触式センサを基本構造にすることで、動作点が目視で確認ができ、位置あわせが容易になり、設定ミスからの精度不良や破損を防げるようになった。
検出体の材質や表面状態、大きさによる制約もない。検知面の汚れや埃などでの誤動作、誤信号が防げたので、予想以上に信頼性が高く使いやすいスイッチとなった。

偶発的誤動作が起きる非接触式センサによる、チョコ停の原因追跡や対策に苦労していた保全部署からの評判が特に良かった。

複数のスイッチを近傍で使っても相互の干渉をしない等など非接触式の弱点をカバーし、工業用スイッチ本来の構造として、合理的な考え方のもとに開発されたといえる。



チョコ停は何故起こるのか?
許容公差小で信号設定(マスタ合せ)が中心に合わせられた場合 許容公差大で信号設定が中心から偏った場合
メトロールの精密位置決めスイッチ
無調整可 必要に応じて微調整

信号設定比較
メトロールの精密位置決めスイッチ
無調整可 設計図面で指定できる

信号設定比較
存在検知センサ
不適当 許容公差範囲に収まらない
信号設定比較
存在検知センサ
要調整 調整作業者の熟練に頼る
信号設定比較



スイッチの取付・調整が悪いと、チョコ停の原因になる

スイッチ信号をシーケンサーにつないで判別をさせている場合が普通であるが、接続の煩雑さを無くし、直接スイッチから判定結果を出せるようにしたり、動作状態を見やすくする工夫など、常に信頼性の高い、使いやすい構造への製品進化が今も続いている。

非接触式センサは手軽だからとか、設計図に描きにくいからといって、機械を前にして直接、現物あわせで取りつけていく場合があるが、取付場所が狭かったり、調整しにくいところなど、正しいスイッチのセッティングは難しく、現場の作業者にまかせるには酷な作業だ。
また、スイッチの選択は設計者の責任であるが、往々にして前例主義や社内規格で拘束されている場合は大きな問題だ。

接触式センサは、機械設計時にキチンとスイッチ周辺の構造を決めることができ、機外で周辺部品とセットすることもできる(外段取り)。
取り付けてからの調整作業も不要になり、チョコ停を未然に防ぎ、可動率を向上できる。
スイッチそのものの価格が安価であるだけでなく、機械製作のトータルコストから見ても有利である。

スイッチというものは単にOK、NGの結果を出すという機能ではその結果からのアクションは取れない場合に判定結果ではなく計測値が欲しい場合にも、接触式変位計が精度の確からしさで有利である。




品質工学の視点から見たタッチスイッチ(接触式)の優位点

メトロールはその後も、製品範囲を広げ、加工機の刃先の状態を確認できる
CNC工作機械用ツールセッタ」機械の動作原点の確認ができるスイッチをはじめ、様々な種類の精密位置決めスイッチの開発を続けている。
加工してから、そのワークの品質を検査するための検査用スイッチではなく、加工前、加工中の機械の動作を確認してから、加工に入るための重要なデバイスとしての役割を果たしている。




おわりに

モノ創りの究極の姿としては、検査レスであり製造工程で品質を作りこんでいくことが大切であろう。そのためには、生産工程のハードウエアがしっかりとした精度と信頼性を持っていなければならないのは当然である。

その意味で、精度の高い「精密位置決めスイッチ」として、作りこまれたメトロールの製品群は大きな力となり、これからのモノ創りの改革に、欠くことのできないデバイスであるといえる。

第1回 第2回 第3回


お問い合わせフォーム



技術お問い合わせ窓口

経験豊かなスイッチ開発設計者が直接ご相談に応じます。

ポンチ絵を書いてFAXしていただいてもかまいません。

FAXシートをダウンロードFAXシートへ

非該当証明の依頼はコチラ